川とともに歩む退職教職員 Mさんの「地域ぐるみの授業」
陽ざしがきらめく9月。
小学校3年生が、学校のすぐそばを流れる川で地域の「生き物助け隊」の9人の方々と体験学習を行うということMさんから聞いたので、校長先生に許可を得て早速取材に出かけました。
川の中で子どもたちに声をかけていたのは、元教職員のボランティアのMさん。御年88歳、膝まで水に浸かり川の深さや流れの速さ、水温などを調べながら、「自然は生きているんだよ」と穏やかに子どもたちへ語りかけていました。
子どもたちにきれいな川を
Mさんがこの川と関わるようになったのは15年以上前。当時の川の様子は、空き缶やペットボトルなどが散乱し、ごみが目立つ状態でした。それらを拾い集めていると、地域の方からは、「県の川だから任せておけばいい」と言われましたが、「趣味でやっているだけです」と、笑って掃除を続けていたそうです。
その後、学校の総合的な学習の時間にこの川が取り上げられ、子どもたちと一緒に学ぶようになったとのことです。
「川がまちづくりの中心になったんですよ」と、M さん。今では、地域の人たちも、「小学校3年生になった子は、川に入り勉強する」と楽しみにしているほど、地域の誇りになっています。
広がる「学びの輪」
この日のために、子どもたちは事前学習をしてきており、いよいよ今日は実際に川に入ります。川の水は山の湧水で、夏も冬もおよそ20度。実際に「バックテスト」を手に水質を調べた結果は「きれいな川」。子どもたちは石の裏の小さな虫や、魚を見つけて、目を輝かせていました。
この活動は、Mさんを中心に町内会や社会福祉協議会、保護者など、多くの人たちの支えで成り立っています。岸で子どもたちを見守ったり、トイレの付き添いをしたり。川を舞台に、地域ぐるみで学びの輪を作る「命の授業」となっています。
アゲハチョウでつながる
この日を遡ること数年前、Mさんは川べりを歩いていて、美しいジャコウアゲハを見つけました。そのチョウがこの周辺で暮らせるようにと食草のウマノスズクサを探し、「街の自慢にしよう」と仲間とクラブを結成。今では30人の協力者とともに、チョウや食草を学校で育てています。クラブのバッジは1,000個を超え、幼稚園でも配っているため、小学校に入学する頃には、みんながジャコウアゲハを知っているのだとか。「どんな形であれ、自然と関わった経験がその子の心に残ってくれればうれしい」とMさんは目を細めます。
子どもに呼びかけられる
長年教師として過ごしてきたMさん。退職後も「教育者は一生教育者」を心情に、1年を通じて学校に顔を出しています。「子供たちのおかげで元気をもらっています。街を歩けば声をかけてくれる。それがとてもうれしいですね。」
そんなM さんの活動について、校長先生にインタビューしたところ、次のように語ってくださいました。
◾️ 3年生がジャコウアゲハの授業の振り返りでこのような発言をしていました。
・虫が嫌いだったけど、ジャコウアゲハのおかげでちょっと好きになったよ
・ジャコウアゲハは、地域の宝だよ
・ジャコウアゲハクラブの方々は、地域のヒーローだよ、など
◾️ 得意げに子どもたちは話していました。
◾️「あれはオスだよ」と、ジャコウアゲハを指差して教えてくれた6年生もいました。
Mさん達のおかげで、小学校の子供たちは学区に誇りを感じています。
Mさんのこの川の活動は新たな恩送りの源流なのかもしれません。
子どもたちの笑い声が今日も川に響きます。